第二章

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   恐らくその硬さは、椅子本来の性能ではない。とすれば、答えは一つだ。 「法術による物質の強化、ですか……」  その椅子から距離を取りつつ、アイリスは問い掛けるようにそう呟く。そんな彼女に、魔王たる青年はその椅子からゆっくりと立ち上がると、少しだけ考えるような仕種を見せた。 「当たらずとも遠からず、と言ったところだろう。先ず、これは法術の類ではない」 「……! 法術ではない? とすると、貴方の固有の能力ですか」 「その通りだ。そして、この能力は、ただ単純に物質を強化するだけのつまらぬ能力(モノ)ではない」  言い終えるが早いか、青年は眼前の椅子を蹴り上げる。椅子は空中で一回転した後、綺麗な放物線を描いて、アイリスの頭上へと落ちてくる。  まともに受けるのは危険だ。咄嗟にそう判断した彼女は、落下するそれを受け流すべく、銀剣を斜めに構える。 「……ッ!?」  椅子が剣の切っ先に触れた、その瞬間、銀の剣はまるで投石を受けた薄氷の如く、粉々に砕け散る。アイリスは瞬時に剣の柄から手を離し、後方へと大きく跳躍した。  
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