第二章

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   跳躍する直前、剣を砕きつつも落下する椅子に、少女の細い指の先が、僅かに、しかし確かに接触した。  暫く宙を舞い、漸く床の上に足を着けた彼女は、視線だけを移動させて自らの指を確認する。  椅子に触れた指の先には、何かが擦れたような痕だけがはっきりと残っていたが、痛みは無く、どうやら骨折などもしていないようだ。それを確認したアイリスは、安堵することも無いままに即座に右方へと身を翻す。  その刹那、彼女の首筋を、何かが掠めた。 「確かに首を取った、と、思ったのだがな……」  残念そうに、しかし何処か愉しそうに、魔王たる青年がそう溢す。彼は片方の手を前方へと差し出した体勢のまま、先程までアイリスが立っていた場所に佇んでいた。  どうやら、先程彼女の首を掠めたものは、その青年の手だったらしい。彼が首を掴もうと手を伸ばしたところで、彼女は見事にもそれを躱してみせたのだ。  刹那の攻防を制したアイリスは、肩で息をしながらも誇らしげな表情を浮かべる。  
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