第二章

20/20
前へ
/568ページ
次へ
   そんな従者を余所に、魔王たる青年は何も無い天井を見上げ、物憂げに語り出す。 「自らをこの人間の姿へと変質させたのは、この世界に降り立って間も無くのことだ。それから、随分と長い年月を過ごしてきた。その中で、人間という複雑怪奇なる生物のことを、ある程度理解したつもりでいたのだがな、いやはや、姿形を真似たところで、その思考までをも易々と理解出来る筈も無いか。まさか、ただ己の心の平穏のためだけに、下等なる種族に対して情愛を注ぐとは……」  感嘆の意を示しているようで、その実人間を馬鹿にしているようにも聞こえる。  アイリスは青年の真意を掴めぬまま、ただ心の中で首を傾ぐ。そんな彼女を、青年は真っ直ぐに見つめた。 「一体どうすれば、その感情を理解出来るのだろうか。椅子に座り、書物を読む。ただそれだけで心の平穏を得られる我が、貴様らの感情を理解するには、一体どうしたら……」  どうしたらいいのか、と、そう続けようとしたところで、青年は何かを思い付いたかのように目を見開き、黙り込む。  そして数秒の間、何処か愉しそうに何かを考えるような仕種を見せた魔王は、直後に再びアイリスの方へと視線を戻したかと思うと、彼女に信じられない言葉を投げ掛けた。 「貴様、我の愛玩動物とならぬか」  
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加