第一章

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  「愚かなことね……」  エリュシオン城内の長い廊下を進みながら、不満げにそう呟いたのは、先程司祭を前に頭を垂れていた少女である。その流れるような黒髪が、彼女の歩調に合わせて右へ左へと揺れた。 「栄誉ある帝国騎士団に属する者が、他者に魔王討伐の大役を奪われてああも喜ぶなんて。彼等には矜持というものが無いのかしら」  はぁ、と溜め息を溢す。その様子に、彼女の少し後方を歩く聖職者らしき若い男が、気遣うような笑みを浮かべた。 「そんなことを仰らないで下さい、アイリス様。皆、貴女が『勇者』と認められて、心より嬉しく思っているのですよ」 「勇者、ね……」  溜め息混じりにそう言って、彼女は足を止め、窓外に広がる青い空を睨み付ける。そんな彼女を前にして、若き聖職者はその笑みを崩さぬまま、何処か寂しそうに目を細めた。  
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