第三章

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   今、彼は何と言ったのだろう。そんな疑問が、アイリスの脳内を支配する。  無論、青年の言葉は、きちんと彼女の耳に届いていた。しかし、彼女の脳髄が、それを理解することを拒む。  目を見開いたまま、何の反応も見せぬ彼女に、青年は僅かに首を傾げた後、気が付いたように言葉を重ねる。 「……! もしや聞き取れなかったか? 貴様、我の愛玩動物に……」 「ふ……ふざけるな!!!」  それは、彼女が産まれてから一度も発したことの無い程の大声だった。 「私は、勇者『アイリス・エリュシオン』だ! 魔王であるお前を討伐し、世界を蝕む闇を払うために、ここまでやって来たんだ!」  剣も持たぬその拳を、血が滴る程に強く握るアイリス。その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。  
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