第三章

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   彼女の掌より溢れる光の粒が、ふわり、ふわりと宙を舞う。それはまるで、夜闇を漂う蛍のようだ。  一見すれば神秘的な光景に見えるのだが、その実、その光は高密度に凝縮された法力の塊である。生身の人間が不用意に触れれば、指の一本は容易に吹き飛ばされることになるだろう。  そんな危険な光の粒が、まるで意思を持つかのように室内を漂い、いつの間にか青年の周囲を取り囲む。それを物珍しそうに眺めつつ、青年は口を開いた。 「こんなことをせずとも、我は貴様の一撃を避けたりはせんぞ」  口許を緩ませながらも、青年は周囲を漂う光の粒の一つに触れる。しかし、光は爆ぜることはなく、彼の指に導かれるがままにその法力の持ち主の近くへと戻っていった。  恐らく、青年の身体から溢れる法力が、その身体を覆っているのだろう。だからこそ、その指先に触れた光の粒は爆発せず、そのままの形状を保ったままに押し出されてしまったのだ。  
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