第三章

8/19
前へ
/568ページ
次へ
  「御無事ですか、我が主……」  小さな声でそう問い掛ける使用人に、主たる青年の声が不満げにこう答える。 「貴様の能力なら、いちいち問わずとも……ああ、視界が悪くて我が視点では何も見えぬか。少し待っていろ」  意味深な言葉を溢しつつ、白煙の中より姿を現す青年。その姿に、表情無き使用人はその口許を僅かに緩ませる。  使用人の安堵を感じ取った青年は、ふん、と小さく鼻を鳴らした後、ゆっくりと周囲を見渡した。 「凄まじいな……」  彼がそう評するのも、無理は無い。  吹き飛んだ壁と床。そこに立ち込める、靄の如き白煙。法術の余波か、彼等の周囲には法力の欠片と思しき幾つもの光の粒が浮遊し、直下の床は未だ僅かに震動し続けている。 「御怪我はありませんか」 「怪我の無い部位を探す方が難しいさ」  そう語る青年の額から、鮮やかな赤色の雫が溢れ、頬を伝って床へと落ちた。  
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加