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「『絶対』の能力を解除していたとはいえ、我が内より溢れる法力は、身に纏えば人間の着用する防具などよりも遥かに上等な装甲と成り得る。それを、高位の魔物でもない一介の法術士に破られる日が来るとはな……」
そう言って自嘲気味に笑いながら、青年はその額より溢れる赤色の雫を拭う。その様子に、使用人の女性は僅かに視線を逸らすと、ぽつりと呟くように告げた。
「……仕方がありませんよ」
「ほう。ということは、やはり能力の類か。人間にしては過ぎたる法力だと思っていたのだ」
「彼女の能力は……」
と、使用人がそう言い掛けたところで、青年は彼女の顔の前に手を掲げてその言葉を制止する。どうやら、他者に教授を乞うのは彼の意に反する行いであるようだ。
その意思を察したのか、使用人はそれ以上何も言わないまま、徐に目を瞑る。それを余所に、青年は何かを探すように、きょろきょろと辺りを見回した。
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