第三章

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  「さて、『元』勇者殿は何処へ行ったかな」  まるでアイリスが既に自らの愛玩動物であるかのように告げながら、青年は更に部屋の隅々を確認する。  全ての力を乗せて放ったアイリスの法術を受け、彼が五体満足で健在している今、彼女が魔王の愛玩動物となることは、ほぼ確定したと言ってもいいだろう。  無論、それは魔王が勝手に提示した『愛玩動物となる条件』であり、了承の意思を示していないアイリスが、律儀にもその誓約を守ってやる義理は無いのだが……。 「……我が主、彼方を御覧下さい」  一向にアイリスを見付けられない様子の主に、痺れを切らしたのだろう。淡々とした口調でそう告げて、使用人は部屋の入り口の方を指差す。  青年がそちらへ視線を向けると、入り口の扉の直ぐ横の壁に、ぐったりとした様子で埋まっているアイリスの姿があった。  恐らくは、自身の放った法術の衝撃に耐え切れず、そこまで吹き飛ばされたのだろう。  
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