第三章

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   漸く見付けたその少女の姿を、青年は近付くこともしないままに数秒の間眺め続ける。そうして漸く口を開いた彼は、視線を向けぬまま使用人に問いを投げ掛けた。 「……あれは、死んでいるように見えるが?」 「いいえ、辛うじて息はあります。法力を使い果たしたことで、一種の虚脱状態に陥っているので御座いましょう」  そう説明しながら、使用人の女性はアイリスに近寄り、その頬に触れる。  身体の後ろ半分を壁に埋め、微動だにしないままに虚ろなる瞳で床を見下ろしているその少女の様子は、まるで趣味の悪い石像のようだ。 「これは……いえ、しかし、最早亡くなっているようなものと言えるかも知れません。『能力』によって脳の演算能力を過度に強化した代償でしょう。脳の機能が完全に停止しています」 「……」  使用人の言葉に、青年はふぅ、と大きな溜め息を吐き出すと、力無くだらりと垂れたアイリスの手を掴み、彼女の身体を眼前の壁から勢い良く引き剥がした。  
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