第三章

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   瞑ったままに、青年はアイリスの髪を優しく撫で、呟くように言葉を溢す。 「我は貴様に与えよう。我が与えられる限りの全てを。代わりに貴様は、我にもたらすのだ。我が心の、平穏を……」  告げる内に、青年の身体が淡い緑色の光を帯び始める。光は青年の手へ、そしてその指先へと徐々に広がっていき、軈て青年とアイリスの身体を覆い尽くした。  その神聖なる光景に、使用人の女性は思わず感嘆の息を吐き出す。  『法力を流し込む』、と、口で言うのは容易いが、その作業は法力に関する豊富な知識量と、己が法力を制御する正確な技術力を必要とする。  魔物や法術士のように、法術を扱う者であれば、法力を放出して他者に与えることくらいは簡単に出来ることだろう。しかし、自身と相手の法力の許容量を見誤れば、思わぬ惨事を招くことになりかねない。  
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