第三章

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   自身の許容量を超えた過剰な法力を注がれた者は、その過ぎたる力を抑え込もうとする防衛反応のために体躯が魔物の如く変異し、大抵の場合は死に至る。仮に一命を取り留めたとしても、知性すらも失って本能のままに周囲の人や魔物に襲う異形の怪物となるだろう。  無論、与える側も安全とは言えない。虚脱状態の者を救うためとはいえ、法力を過度に放出すれば、自身も同様に虚脱状態へと陥る危険性がある。  尤も、自身の身体より溢れる法力だけでアイリスの法術を防いでみせた程の、大量且つ高純度の法力を有するその青年が、法力を使い果たして虚脱状態になることなど、万が一にも有り得ないのだが……。 「…………」  青年の額を、一筋の汗が伝う。  机の上に置いた一握りの砂の、その小さな砂粒を、細い針の先で一つ一つ弾いて数えるような、そんな地道で緻密な作業を、彼は今、一人で行っているのだ。  
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