第三章

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   どれくらいの時間が経過しただろうか。  城主たる青年は、自らの支配する城の床の上に跪き、荒い息を整えつつも手の甲で額に溜まった汗を拭う。  その一方で、勇者たる少女は、床に座した使用人たる女性の膝を枕にして、深い眠りに就いていた。 「我が主。そしてアイリス様。御二人共、その身に有する法力は安定しております。……成功致しましたね」 「当然だ。我を誰だと思っている」  引きつった笑顔を見せる主に、使用人がクスクスと笑う。その様子に、青年は少しだけ不満そうな顔を覗かせると、ふっ、と小さな息を溢し、直後にその表情を緩ませた。 「ああ、素直に認めよう。我が知能と技術を以てしても、難解な作業であったと。法力を注いでいる内に解ったことだが、其奴の純粋なる法力の許容量もかなりのものだ。固有の『能力』も併せ、他の人間共より勇者と担ぎ上げられるのも納得出来る」  能力、と、その言葉を僅かに強調する。そんな主の姿を真っ直ぐに見据えたままに、使用人の女性は膝で眠る少女の頭を撫でた。  
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