第四章

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  「ならば笑え。大いに、な」 「……ッ!」  使用人の後方より響いたその静かな声に、アイリスが目許を覆うその腕を僅かに浮かせて声のした方を見遣ると、部屋の入り口に佇む青年の姿が目に入った。 「貴様の全身全霊を込めて放った法術でも、我を打倒するには至らなかった。それが結末であり、全てだ。笑いたいのであれば、気の済むまでそうするがいい」  心無い言葉に、不意に奥歯を噛み締める少女だったが、直後に前方の青年の顔に貼り付いた不満げな表情に気付き、心中で首を傾ぐ。 「貴方こそ、私を嘲笑すべきではないの」 「馬鹿を言うな。人間如きに深手を負わされた挙句、法力を捧げようとしたら予想以上の法力許容量で大量の法力を奪われ、普段は滅多に睡眠を取らぬ我が、三日も休眠する羽目になったのだぞ。笑うどころか、自身の不甲斐無さに怒りが込み上げているところだ」  そう言って拳を握る青年の顔は、本当に悔しそうだ。  
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