第四章

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   偉大なる法術士より魔王とまで呼称された魔物の、その本当に悔しそうな姿に、アイリスは思わずふふっ、と小さな笑い声を溢す。  彼女は確かに、笑った。しかし、笑うつもりなど無かったーーいや寧ろ、笑う気分になどなれる筈もなかったアイリスは、自身の口腔より溢れたその笑い声に驚き、目を見開く。  慌てて青年の方を見遣れば、彼は未だに悔しそうな顔で、ぶつぶつと自身への文句を垂れていた。どうやら、彼女の笑い声には気付かなかったらしい。  ほっ、と胸を撫で下ろしたアイリスだったが、直後に使用人の女性の顔に貼り付いた優しげな笑みに気付き、慌てて顔を伏せる。 「な、何ですか……」 「いえ。ところで、御身体の方は大丈夫で御座いましょうか」  『同調』の能力を使用すればたちどころに把握出来る筈の情報を、敢えて問い掛けてまで話を逸らそうとする使用人に、アイリスは呆れたような表情を浮かべつつも首を振る。  
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