第一章

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   アイリスはその首飾りを受け取ると、慣れた手付きでそれを自らの首に装着する。首に触れた冷たい紐に、思わず片方の目を細めた彼女だったが、自らの体温で段々と温まっていくその感触に、再び優しげな笑みを浮かべた。 「ありがとう、ミノス。大切にするわ」 「……必ず、無事に帰って来て下さい」  今度は語気を強めて再びそう告げたミノスに、少女は強く頷きながらも一言「ええ」とだけ答えた。  『プセウド=エリューシオ』の空に黒色の孔が現れてより数十年の長きに渡り、人々は魔物の脅威に抗い続けてきた。  圧倒的な強さを誇る魔物達を前に、人類は為す術も無く絶滅に追い遣られるかと思われたが、しかし、人々は度重なる魔物との戦闘の中で学習し、成長し、遂には一部の魔物達が扱う異能の力、『法術』を会得することに成功した。  法術を操る術を得た人々ーー『法術士』と呼ばれる者達は、会得した多様な『法術』と、そして力無き人類にとって最大の武器と為り得る『知恵』を用いて、攻め寄せる魔物達を次々と撃退していった。  
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