第四章

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   そう言って満足げな笑みを浮かべる青年を前に、アイリスもまた、艶やかなる微笑を溢す。  彼女ーー勇者『アイリス・エリュシオン』の使命は、闇に閉ざされた王国の王城に住まう魔王の討伐である。つまり、眼前に佇むこの青年を殺すことが、彼女に与えられた任務なのだ。  しかし、本を正せば、その任は『魔王を討伐すれば魔物達の戦力を削げるのではないか』、という確証の無い仮定の許に発行されたものであり、魔王たる青年を倒さずともその結果を得られると解った今、無害な魔物である彼を討伐する必要性は殆ど無くなった、と考えていいだろう。  何より、勇者の使命の本質は、魔王や他の魔物を討伐することなどではない。この世界ーー『プセウド・エリューシオ』に生きる、全ての人間を救うことである。  そのために必要だからこそ、彼女は魔物を屠っていたのだ。  
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