第五章

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   暗雲に支配された漆黒の空の下、ずらりと並んだ墓石の前に佇むアイリスは、徐に目を瞑り、頭を垂れて死者への祈りを捧げる。  此処は、彼女が住まうこととなった城郭の中庭だ。そしてこの墓所は、嘗て此処にあった王国に暮らしていた人間達と、彼等と戦った数多の魔物達のために作られたものである。  魔物達がこの城を攻め落とし、現在の城主である青年がこの城へ初めて足を踏み入れた時、城内には幾つもの屍が放置されていた。  元より奮戦した人間達に敬意を抱いていた青年は、人魔の別無く、彼等をこの中庭へと丁重に埋葬したのである。  それだけを聞いても、その青年が後に『魔王』と呼称される程の魔物だとは到底思えないだろう。  しかし、戦没者に敬意を払って墓を建てるような魔物であっても、流石に祈りを捧げることはしないため、此処に住まうこととなったアイリスが、彼の代わりにこうして祈りを捧げているのだった。  
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