第一章

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   勇者アイリス・エリュシオンも、その『未知なる魔王を討伐する可能性を持つ者』の一人である。  多くの人々の期待を背に、エリュシオン帝国を旅立った彼女は、幾多の危機や苦難を乗り越え、遂に魔王の住まうとされる王国の城郭の前に辿り着いていた。 「…………」  荘厳にして妖しき城郭の扉の前で、アイリスは無言のままに黒色の天を仰ぎ、目を瞑る。長き旅路を思い出しているのか、その目尻からは透明な雫が溢れている。  彼女の隣に立つ者は一人としていない。旅立つ際には四人いた筈の頼もしき仲間達は、旅を続ける中で段々と減っていき、遂には彼女一人となってしまった。  この状態で眼前の城に乗り込んだところで、『魔王の討伐隊』などとはよく言ったものだと一笑に付されるところであろうが、しかし、散っていった仲間のためにも、帝国で待つ人々のためにも、最早彼女に退くことは許されなかった。  
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