ハンニン探し

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 ニュースでこの事件のことを知り、立体映像(りったいえいぞう)ごしにだけどねえさんの姿(すがた)を見られたときは、おどろきよりもなつかしさの感情のほうがまさってしまっていた。 ニュースでの内容によれば、ハンニン、つまりフランねえさんとヒューゴは、年少組の子どもたちとの面会において、今では禁止(きんし)されている子どもたちの前での楽器演奏(がっきえんそう)をおこない、縦笛(たてぶえ)をふいたり竪琴(たてごと)をかなでたりしていたという。 さらには、これまた禁止行為(きんしこうい)であるはずのかみしばいを、子どもたちの面前(めんぜん)で読み聞かせ、そのかみしばいと同等の内容が書かれた冊子(さっし)を子どもたちにこっそりと配っていたそうだ。  ぼくはあらためて、弟である自分のもとにとどいたねえさんの愛読書(あいどくしょ)をながめた。 ハーメルンのネズミ()りの話には、いくつものヴァリエーションがあるんだって、ねえさんはぼくによく話してくれたっけ。 中でもゲーテの詩による物語は、最高傑作(さいこうけっさく)だと言っていた。 ハーメルンのネズミ捕りの二面性(にめんせい)をじつにうまく表現しているんだって。 それは、まったく正反対の性質を持つ二つの歌曲(かきょく)がその詩から生まれた、という事実からもわかります、とねえさんはそのとき付け加えたと思う。 そういえば、片方(かたほう)の楽しそうな曲は子守歌(こもりうた)のように優しく、もう片方のはげしい曲は、まるで宣誓(せんせい)でもしているかのように強い声で、ねえさんとヒューゴが面会のときに歌っていたのを思い出した。 ゲーテの詩をもとにした童話(どうわ)片付(かたづ)け、それから眠りにつこうとしたぼくは、次の瞬間(しゅんかん)新たなる事実に気づくことになる。
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