手を伸ばした先は彼

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 十年前も、シゲルはこんな目をしていた?  十年前も、こんな風にあたしのこと見てた?  そんなわけない。こんな風に見つめられたら、あたしはどうかしてしまう。あの頃だってきっとどうかしてしまったと思う。  そして、もうあたしは十年前のあたしじゃない。  そう、同じじゃない。あたしだって変わったんだ。これが答えでいいと思った。  こんな答え方しかあたしは出来ない。  こんな風にしか、今の自分を晒す方法しかわからなかった。  さっきの問いに答えるように、あたしは、彼を欲していた。  からだは大人、こころは子供。なんていう矛盾だろう。まだ幼稚で未熟なあたしの心は彼を困らせていないだろうか?  耳元でシゲルがなにか囁いた時、あたしの頭の中は彼のことでいっぱいで聞き取れなかった。  もしかしたら、あたしは今、ものすごくバカなことをしているのではないか?  けれど、そんなことはどうでもよかった。十年前、どうしても届かなかった彼の背中が、今あたしの手で包み込めてしまう距離にあるのだから。 「ごめん」  そう言いながら大好きだった手があたしの頭を撫でた。  結果的にごめんと言われても、彼に抱かれたかった。そんな風に言うとわかっていた。わかっていたのだから、そんなことはあたしの中で問題ではなかった。  先に手を伸ばしてしまったのは、そばへ寄ったのはあたしだ。 「妹に手、出しちゃった気分?」  強がってからかうように言ってみるものの、返事は随分真面目な声で返ってきた。 「妹なんて思ったことないよ」  これはたぶん夢だと思った。都合良過ぎるあたしの夢。  彼に引き寄せられてぎゅっと抱きしめられる。温かい彼の腕の中で、やっぱりあたしはまた彼が好きになってしまった。  そういえばと思い出し、義姉が母親になってしまった真相を明かした。 「お姉ちゃんね、あたしのお義母さんになちゃったの」  返事がいつまで経っても返ってこないから、シゲルの顔を覗き込んだ。  寝ちゃったのかと思ったら、とてつもなく変な顔をしていたから、あたしは思わず噴出してしまった。
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