20人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
十年前も、シゲルはこんな目をしていた?
十年前も、こんな風にあたしのこと見てた?
そんなわけない。こんな風に見つめられたら、あたしはどうかしてしまう。あの頃だってきっとどうかしてしまったと思う。
そして、もうあたしは十年前のあたしじゃない。
そう、同じじゃない。あたしだって変わったんだ。これが答えでいいと思った。
こんな答え方しかあたしは出来ない。
こんな風にしか、今の自分を晒す方法しかわからなかった。
さっきの問いに答えるように、あたしは、彼を欲していた。
からだは大人、こころは子供。なんていう矛盾だろう。まだ幼稚で未熟なあたしの心は彼を困らせていないだろうか?
耳元でシゲルがなにか囁いた時、あたしの頭の中は彼のことでいっぱいで聞き取れなかった。
もしかしたら、あたしは今、ものすごくバカなことをしているのではないか?
けれど、そんなことはどうでもよかった。十年前、どうしても届かなかった彼の背中が、今あたしの手で包み込めてしまう距離にあるのだから。
「ごめん」
そう言いながら大好きだった手があたしの頭を撫でた。
結果的にごめんと言われても、彼に抱かれたかった。そんな風に言うとわかっていた。わかっていたのだから、そんなことはあたしの中で問題ではなかった。
先に手を伸ばしてしまったのは、そばへ寄ったのはあたしだ。
「妹に手、出しちゃった気分?」
強がってからかうように言ってみるものの、返事は随分真面目な声で返ってきた。
「妹なんて思ったことないよ」
これはたぶん夢だと思った。都合良過ぎるあたしの夢。
彼に引き寄せられてぎゅっと抱きしめられる。温かい彼の腕の中で、やっぱりあたしはまた彼が好きになってしまった。
そういえばと思い出し、義姉が母親になってしまった真相を明かした。
「お姉ちゃんね、あたしのお義母さんになちゃったの」
返事がいつまで経っても返ってこないから、シゲルの顔を覗き込んだ。
寝ちゃったのかと思ったら、とてつもなく変な顔をしていたから、あたしは思わず噴出してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!