京都へ

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   新幹線に乗ると、男はすべてのカード類を購入したばかりのハサミで切りはじめた。 〈俺という個人が特定されるものは全て破棄しなければ〉  キャッシュ、クレジット、診察券、会員カード、割引券・・・。 〈これが俺の過去か・・・〉  カードの残骸はコンビニの袋に入れ、通路のゴミ箱に捨てた。ありふれたゴミとして処分されるだろう。  自席に戻る。何かが違う。彼は普段の自分でないことに気付いており、自分自身を演じることで日常を取り戻そうとする。椅子をすこし倒すと電光掲示板のニュースが目にはいった。 《尾崎代議士の証人喚問決まる》  ついに来るべき時が来たのか。  彼は油ぎった尾崎の顔を思い浮かべる。その姿は、いつもイラついており彼を叱責した。 「そんなことも分らんのか」  奴はどう答弁するのだろう。支持者にむけた庶民的な笑顔。裏で平然と嘘をつく男。 「すべて秘書のやったことで、わたくしは何も存じませんでした」 〈あんなクズのための俺は命を失うのか〉  男のなかに怒りが沸きあがる。その憎しみは自責を誘導し、いつしか自らの過去を蘇らせていた。 〈どこで道を踏みはずしたのだろう〉     
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