第3話 授業

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 視聴覚室への道すがら、一人、物思いにふける。いつ治るともしれない小さなハゲ。その間、何度教室を移動するのやら。牛乳をガロン単位で飲んだとしても、一朝一夕に背は伸びまい。だったらシークレットブーツでも履く? 上履きの裏に消しゴムでも張り付けるか。いやそんなことしたら学年主任の鬼教師、鬼頭(きとう)に睨まれる。ならば…… 「志田さん、なんで、つま先立ちして歩いているの?」 「はへ?」  集中していたところに話しかけられ、『はい?』と『へ?』が混ざったなんとも間抜けな声が漏れる。  振り返れば、そこにはクラスメイトの宗谷サキが不思議そうな面持ちで立っていた。  すらりとしたスタイル、さらりとしたロングヘア、つるりとした肌。いわゆる『イケてる女子』だ。だけど休み時間ごとに女子トイレの鏡を占領して、眉毛を書き足したり、前髪の凝固具合を確かめたりはしてない。自然体でありながら、それが美しい、キヨミがひそかに学年一綺麗だと思っている人物。 「あ、えっと」  そんな相手にまさか、『ハゲを見られないよう、少しでも頭の位置を高くする練習をしている』とは言えない。絶対言えない。口が裂けても。 「こうして歩くと、背が高くなるって、聞いたから」  苦し紛れに、適当な話をでっち上げる。 「そうなんだ、テレビか何かでやってたの?」  宗谷はトイレに行っていたのか、ハンカチで手を拭き拭き、キヨミの隣に並んだ。彼女とは小学校も去年のクラスも部活も違い、今までほとんど接点は無かった。予期せぬ成り行きに緊張する。 「え、あ、うーん、お母さん?」     
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