第4話 昼休み

2/4
116人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 辞書、事典の類が並んでいるのは、薄暗い本の林の奥深く。きっと求めるものもそこにある。キヨミはスチール製の棚にざっと視線を巡らせた。しばらく探した後に目を止める。角で頭を殴れば、人も殺せてしまいそうな分厚いそれ。抜き取る時、あまりの重さに二、三歩よろめく。誰もいないのを良いことに、そのまま床に座り込んで、その本――『家庭の医学』を開いた。  目次を辿る。心臓の病気、胃の病気、腎臓の病気、肛門の病気、目の病気……皮膚の病気。キヨミは逸る気持ちを抑えつつページをめくった。 《円形脱毛症》  ◎症状と原因  はげた部分は、一個のことも何個でもできることもあります。まれには頭髪が全部抜けてしまったり、まゆ毛やひげなどにおこることがあります。子どもにもおこります。  かゆみや痛みはなく、全身に異常をみることもありません。  原因は、自己免疫説、神経障害説などがありますが不明です。  ――原因は、不明。  紗がかかったように視界が暗くなる。なんと絶望的なことを書いてくれるのか。ハゲができてしまった女子中学生の気持ちを全然慮っていない。不治の病です、とかこれ以上衝撃なことが書いてあったらもう立ち直れない。キヨミは怖々しながらも堪えてページをめくる。  ◎治療方法――ああここ、が肝心! 飛び込んできた文字に、心中、歓声を上げたその時。 「もう閉めますけど、何か借りていきますか?」  唐突に声を掛けられ、キヨミは跳ね上がらんばかりに驚いた。     
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!