第5話 清掃・前半戦

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 自分の教室(テリトリー)外だというのに、橋本にはまったく遠慮がなかった。ぐしゅぐしゅと裾を引き摺ってしまいそうなソックスに脱色した髪と派手なタイプの女子で、キヨミはほとんど関わったことがないが、同じ小学校出身のヨッチは親しいようだった。実際、橋本はヨッチに用があるらしく迷わず足を進める。途中、ちらり、引っ掻くような視線をキヨミに寄こして。  橋本はヨッチの耳に唇を寄せ、ごにょごにょと内緒話を始めた。人前でする耳打ちにどれだけ意味があるのかと疑問に思うが、二人は気にしていないようだ。  というか、キヨミ自身が気になる。あからさまに秘密の話をされるのは、良い気がしない。キヨミは机に寄り掛かって、なんとはなしに教室の後ろに貼り出されている美術の課題に注意を向けた。  空想上の『幻の花』というお題で、一クラス三十六名が思い思いの花を描いたそれ。キヨミの作品は隅っこの目立たない場所に掲示されてあった。どことなしにどんより暗い色調の絵なので、意図的に追いやられたのかもしれない――そんなふうに考えてしまい、どうも被害妄想が抜け切らないなと嘆息する。  気持ちを切り替えようとミカを捜すが、トイレにでも行ったのか、姿が見えなかった。 「キヨ」     
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