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話が終わったのかと振り向けば、そこにはひどく強張ったヨッチの顔があった。シャギーの入ったショートヘアが頬に張り付いてしまっている。一方、寄り添った橋本の面には、非難するような、でもどこか面白がるような色が浮かんでいた。それは通学路にあるゴミ置き場近くの電線の上、高みで人を見下ろすカラスを連想させた。――ヨッチが口を開く。
「あんた、昼休み何してた?」
「何って、一緒に給食、食べてたよね」
もう忘れちゃったの、と笑いかけようとした。だが、ヨッチは固い表情のまま、
「その後、ひとりでどっかに消えたじゃん」
「それは、」
ハゲの治療法を調べに図書室へ行っていました。
とは言えず、言葉に詰まる。適当に言い繕えば良かったのかもしれない。しかしキヨミはそれほど器用ではないし、何よりヨッチが嘘を許さない凄味を発していた。代わりにというべきか、橋本が口を開く。手品の種明かしを披露するかのように得意げに。
「高科先輩と逢引してたんでしょ?」
逢引。ドラマや漫画でも最近はあまり聞かない、明るい教室で耳にするには尚更似つかわしくない音に、「はぁ、何ゆってんの?」そう言い返そうとしたその時。
赤いラインが入った三年生の上履きが脳裏を過ぎる。
あの図書委員、まさか……
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