第5話 清掃・前半戦

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 キヨミは、ヨッチが憧れるタカシナ先輩なる者の顔を知らない。教室の窓から校庭を指差して、ほらほら先輩いるカッコイイっしょ! と以前教えてくれたものの、サッカーの試合中の男子生徒を見分けられるはずもない。それに恋に恋する発情期、季節ごとに変わる女子中学生の想い人なぞ、本音を言えば覚える気になれなかった。  薄暗い図書室で男女が向き合っていたなら、意味深に見えたかもしれない。  親友が、行き先も告げずに、一人急いでどこかに出掛けたら、怪しく思うかもしれない。  だけど。 「…………」 「…………」  黙り込んで否定しないキヨミを、ヨッチは悲しく、同時に責めるように見る。  橋本さんなんかの言うことを信じるヨッチを、キヨミは悲しく、同時に腹立たしく思う。  見えない壁で遮断されてしまったように、キヨミは教室の喧騒を遠く感じた。こめかみの辺りがじぃんと熱い。身動きすらできない。胸のすぐ上まで嘔吐感がせり上がる。 「キヨ、掃除当番呼ばれてるよー?」  我に返ると、ミカが戻ってきていた。教卓の前で星野が、役割分担するぞ掃除当番集合!と叫んでいる。 「……どうしたの?」  不穏な空気を敏感に感じ取ったのか、ミカが問うてくる。 「志田さんが、」  にやりとした橋本を、キヨミはうつむき加減に睨みつけた。彼女は素知らぬふうな顔をする。  ……でも、今はそれが精一杯。  キヨミはヨッチとミカの間をすり抜けて、教卓の前へ向かった。  何が、どうして、こんなことになってしまったんだろう。     
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