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いっそ、彼らを羨ましいと思わないでもない。自ら編み出した必殺技を繰り広げる男子を横目で追いながら思いを馳せる。彼らに悩みはあるのだろうか。あるかもしれない。右手に宇宙生物を宿しているとか、前世は選ばれし勇者だとか、放課後は異世界で魔王とか、そんな類だろう。誰も自分の切実な悩みには追いつけまい。
彼らは戦い、衝突し、団子状にくんずほぐれつ絡み合い――お約束というべきか、ワックスがたっぷり残っている缶を倒した。どろりとした粘性のある液体がぶちまけられ、一人が転倒し、べちゃり、とうつ伏せに倒れ、ツー、と人間モップとなって一メートルほど滑る。
一瞬の静寂の後。
「何やっとるか!」
怒髪天を衝く、とはこのことか。一体どこで耳をそばだてていたのか、間髪置かずに学年主任の鬼頭が怒鳴り込んできた。四角い顔をして、四角い眼鏡を掛けた、四角四面の初老の教師。
さしもの三馬鹿も、条件反射のように背筋を正す。一人はジャージからワックスを滴らせて。
「この馬鹿もんが、何をしておる!」
「つ、つま先立ちで歩いていたら滑っちゃって……」
「どうしてつま先立ちなんかをしとるんだ!」
「これやれば、背ぇ伸びるって聞いて……」
「伸びるわけなかろう! 誰がやり始めた!?」
「授業中に回ってきた話で……」
「なら誰が言い始めたんだ!」
きょとん、と。一喝されて、彼らは顔を見合わせた。
――そういや誰だ、オレお前から聞いたぞ、俺はお前から聞いたし、いやいやおれはお前から聞いたんじゃなかったか――
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