第3話 授業

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第3話 授業

 HRに続いて英語の一時間目が終了し、二時間目は理科。あらかじめ視聴覚室で行うというお達しがあったため、筆記用具と教科書を抱えた黒の詰襟と紺のセーラー服が大移動を始める。もちろん、キヨミもその列に加わっていた。だが、いくらも行かないうちに、 「忘れ物したみたい。先行ってて!」  前を歩くヨッチとミカの返答も待たずに、くすんだリノリウムの廊下を駆け出した。  列を乱した机、引きっぱなしの椅子、筆記体が貼り付けられたままの黒板。誰もいない教室は、それでもまだ生徒たちの体温が残っていて、だからこそ寂しげに見えた。光の中、舞い上げられたほこりがきらきらと沈んでゆく。  その光景にほんのわずかな間見惚れて、頭を一つ振ると、キヨミは故意に置いてきたノートを机から取り出した。  少しわざとらしかったと思わないでもない。  だけど、あのまま皆とぞろぞろ列をなして歩くわけにはいかなかった。どちらかといえば小柄なキヨミは見下ろされてしまう可能性があるし、まだ太陽が低いこの時間帯、廊下には燦々と陽が射し込んでいる。そんな危険区域に、うかつに足を踏み入れるべきではなかった。     
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