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終業のチャイムが鳴って間もなくの教室はそれまでの沈黙の分を取り戻したいかの様にガヤガヤと活気づいていた。
「次の授業は音楽室です。皆さん廊下に整列してください!」
眼鏡をかけたおさげ髪の少女がひときわ大きな声で呼びかける。
それに反応して動く者もいればそうでない者もいる。
「親父がさ、株でひっでぇ目見たってさ。」
「あー、最近なんかあちこちの大手企業のトップが逮捕されまくったり解体とか倒産とかばっからしいな。」
「ありえなくね?こう立て続けにでかいとこばっか。不景気すぎ?やばいっしょ。」
「ほら男子!さっさと整列して!」
動こうとしないグループに少女は腕組みして言うが当の男子達は気にかける様子もない。
「並びなさいって言っているのよ!」
彼女が近づいて行くとその中の一人が悪びれもせずに答える。
「俺らで勝手に行くから先行ってていいよ。」
少女の眉が寄る。
「何言ってるのよ!あんた達がそうやって授業開始までに来ないから整列して移動するって事になったんでしょうが!ほら並んでよ!」
何人かがおどけた仕草の後指示に従ったが、気にする事なくおしゃべりに興じる者がほとんどだった。
「あんた達のせいで全員が絞られる事になったら責任持てるの?」
「だから先行っていいって。」
少女がいよいよ不機嫌な顔になる。
「私にはクラスをまとめる責任があるの!」
すると何人かがそれを笑った。
「っても偽委員長に言われてもなぁ。」
「偽っ!…偽じゃありません!私はこのクラスの委員長です!」
男子達は動こうとしない。
偽委員長と呼ばれた彼女はおしゃれを拒否するかように髪を後ろにまとめた少女にすがりつく。
「西野さん、お願い。」
頼まれた少女は頬笑みのまま小さく頷くと未だ移動しようとしない男子集団の元に行き、中の一人の手を取った。
「相田君。あなたが基準なのだからあなたが真っ先に動いてくれると助かります。私と来てください。」
言うなり相手を廊下に引っ張ってゆく。
ひゅうとどこかで口笛が鳴る。
「はい、ここです。動かないでくださいね?ああ、そうだ、こうです。この姿勢でお願いします。」
片腕をあげさせられ呆然とする相田をよそに、彼女は再び男子集団に戻って行く。
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