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教室について間もなく予鈴が鳴った。
「セーフ、セーフ」
椅子に座り、ゼリー飲料を取り出して一気に吸い上げる。朝食を取らないなりに何か腹に入れておくべきという作戦のお陰か、この方法を取り入れてから朝眠くなるということは少なくなった。
受験も段々と近づいてくる頃である。一年生の頃は半分以上サボっていたが、今ではそんな悠長なことも言っていられない。自業自得ではあると思うが、まだ実行しているだけ良いのではないかと思う。――しかし、実際朝食をとったところで起きているかは半々であったが。
「こんなものでも、食わないよりはマシなんだな……」
一分経らずで空になった容器をひらひらと振る。ふと目線をあげると、東野がいつものように携帯を片手に近づいてくるのが見えた。
「よう、反町」
それから俺の席の正面に立って、見下ろしてきた。
「……おう」
咄嗟に視線を彼の頭から爪先まで走らせる。ライトグレーのシルエット――いつも通りだ、と気づかれないように安堵した。東野は良くも悪くも負の感情を撒き散らすことが少ないため、一緒にいてあまり疲れないのだ。
「また、仮朝食を食べているのか」
「仮、ってなんだよ」
しかしれっきとした食べ物であるとも言い難いため、それ以上は何も言えない。固形物の方がまだ朝食感があるのではないか。
「お前はもっと太った方がいい。増量だ」
「残念ながら、太れねえんだよな」
「もっと食え」
体育会系らしい、と俺は思った。東野は特段、運動が得意であるとか運動部に所属しているというわけではないが、たまに極論を振りかざす人物だった。
「……それで、何かあったのか」
「ああ、そうだった。これを見てくれ」
そう言って差し出された画面には、新期アニメの情報が表示されていた。ざっと斜め読みする限り、俺が好きなものの放送数はあまり多くない。
「もう見たか?」
「まだ確認してねぇけど……ああ」
元からあまり期待していなかったため何とも思わないが、代わりに東野の好きだったアニメが再放送すると書いてあり、これか、と苦笑いしてしまう。
「良かったじゃねぇか、もうやらないって噂されてただろ?」
「反町は何かないのか?」
オタク談義ができないのは困る、といった風である。何も俺相手に限定してするものでもないだろうに。
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