インビジブル・マインド

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「新しいの見始めても長いだけだし、な」 「新作も面白いのにか」 「今のところ間に合ってるんだよ」  背もたれにもたれかかり、深く溜め息をついた。最近はあまり興味の湧くようなアニメや小説に出会えていないため、暇な時間を持て余すことが増えた。  周りにはやれアーティストだの、やれゲームだのといった会話が飛び交っている。  残念ながら俺は流行りのアーティストになど興味はないし、プレイするゲームも流行とは外れたものである。そうなると、唯一アニメという点で話のあう東野とつるむのは必然であった。 「映画もやるってあったからな、観に行かないと」 「お前、何回観る気だよ」  確か、前回は四回ほど観に行ったと聞いているが。 「見る度に新しい発見があるんだから、価値がないことはない」  同意できないことはなかったが、そこまでして金をかける気は俺にはなかった。映画自体は好きであるが、しかしどちらかと言えば劇場ではなく、家でゆっくりと観たい派である。 「なに、またお前らアニメの話してんの?」  隣の席から投げかけられた言葉に、振り返ることもなくまたか、と目を伏せてしまう。石田は誰彼構わず、あるいは空気を読まずに会話に割り込んでくるタイプであるが、不思議と疎ましがられることは少なかった。  しかし俺にとっては例外である――石田の姿が普段から真っ白であることを鑑みるに、恐ろしく楽観的なのか、それとも周囲に無頓着すぎるのか。――ともかく、あまり好きなタイプではない。 「ああ、かなり楽しみだ」  東野が応答する。こちらもこちらで我を通そうとする性格であるが、意見の衝突だけは避けようとしている物言いであった。 「俺、アニメとかよく観ないんだけど、そんな面白いのか?」 「かなり、面白い。石田も観てみるか?」  沼かよ、と突っ込みを入れかける。 「いや、俺そういうのよくわかんないから」  じゃあ話しかけんなよ、とこちらにも突っ込んでしまいそうになる。無理に話に割り込んでくる割には無意味な問答をしてくる。とても面倒くさい人種だ。  単純に、彼が純粋な体育会系であるため、俺たちのようなサブカル系の人間には馴染みがないだけかもしれないが。――そういう点では、彼らよりの思想の東野は、まだ石田と気があう部分があるのかもしれない。 「……石田、呼ばれてんぞ」 「お? おう、頑張れよ反町!」
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