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有紗は人と話すのが苦手だった。いつだって俺の陰に隠れている。
人見知りとはまた違う。きっと怖いのだろうと思っていたから、俺は黙って有紗を守り続けた。
「いつもありがとう、優くん」
その言葉が何より嬉しかった。
昔、有紗は誘拐されかけたことがある。母親がすぐ隣にいたのに、まるで神隠しのように連れ去られたのだ。
犯人は未だ捕まっていない。有紗の母親が言うには、一瞬だけ視界に犯人らしき黒い塊で人間とは思えないものが映った気がするとは言っていたが、それも定かではない。
娘を誘拐されたストレスからか、有紗の母親は程なくして精神の病にかかってしまったからだ。
「よく覚えてないけど、すごく変な人だった。有紗のこと好きだって言ってた」
一度だけ、有紗がそんなことを教えてくれたことがある。
だから有紗は人が怖いのだろう。俺は幼馴染だから大丈夫なのだろう。そう思っていた。
「有紗のこと、好きっていう人は、怖い」
だから俺は、せめて俺だけは有紗の怖がることはしないようにしようと思った。
俺の気持ちは一生隠し続けなければいけない。
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