第58話 side kira

1/4
10966人が本棚に入れています
本棚に追加
/328ページ

第58話 side kira

今日は、清水部長んとこだ。壁ドン(あれ)以来。 麗佳が行くのも嫌だけど……恥ずかし過ぎて憂鬱だ。 筋は通そう。礼は言わないと。 「清水部長、何て言っていいか……ありがとうございました。……すみません、この前」 謝罪から入ると、清水部長は気にする素振りもなく意外そうに言った。 「あー……何が? もっとニヤけて来るのかと思ったら、そんな顔して」 ニヤけて?まさか!全く笑えない。 「あの状況で、手……出さずにいて下さいましたよね」 彼は少し驚くと 「買い被りすぎ。他の男を好きな女を抱く趣味はないって言っただろ? 」 「でも、そうしてくれた。出そうと思えば出せたはずだ」 あのホテルで一晩過ごして、何もないなんて……俺と麗佳の為以外、なにものでもない。 「虚しいだけだろ、こっちが」 「譲ってくれた」 彼は、ため息をついて続けた。 「譲るも何も、元々君のものだよ。彼女の気持ちは」 「あなたが本気出せば、誰でも落とせたはずだ。でも、しなかった。……感謝してます。背中、押してくれた事も」 情けない、俺の。 「まぁ、壁ドンはされるよりする方がいいかな」 ぶわっと、顔が熱くなるのが分かった。 「……すみ、ません」 「だから、『君が代わりに行く?』って聞いたのに、物凄い早さで走って行くんだもんなぁ。あれは、俺には追い付けない」 からかうようにそう言われ、全くばつが悪い。 「え? 本気で取ってたんですか? あそこ……」 「いや、貰ったんだよ。会社からインセンティブ。まあ、ただのスライド品だけどね。せっかくだから、君たちにプレゼントしようと思ったのに。俺はわざわざ金曜に、会社の近くなんて泊まりたくないんでね」 それは、いえる。 「……普通にそう言って下さいよ。かかなくていい恥かいちゃったじゃないですか」 「それ以上にいい夜過ごせただろ? ……君の方も、以前のあの夜はどこに泊まったかは、突っ込まないでおく。お互い様ということで」 「……はい。ありがとうございます」 お見通し……もう、流石すぎるな。確かに、早朝にスーツであんなとこにいるのは不自然だ。 「いーえ、良かったね」 「すみません。そういえば、そのホテル……一人で泊まったんですか? 」 「いや……あー……えっと……」 「何? 」 急に歯切れが悪い彼に、眉を寄せる。 こっちを見ると 「……彼女が……付き合ってくれた……んだ」 「は? 彼女……? 」 “彼女”は……いないだろ?出来たのか?彼女……って……その時、あの日の残像が脳裏に浮かんだ。 「まさか! 」 「ああ、うん」 「うっわー、めちゃめちゃ面食いですね、清水部長」 麗佳さんに……湊……とくれば。 「いや、君に言われたくない」 「僕は顔だけじゃ……」 「俺も、だよ」 「あーまぁ、湊も確かに」 彼を真っ直ぐに見ると 「大事にして下さいね」 そう言った俺に 「約束、する」 彼は真っ直ぐにそう言った。彼は……彼なら大丈夫だ。 「なんだよ、あいつ……やるじゃん」 めちゃめちゃいい男捕まえんじゃん。しかし……あの一瞬でかぁ。 すげえな。清水部長。んで、そのままホテルかよ。やっぱりな、何もしないでいてくれたんだ。麗佳さんとのあの日は。 ……良かったなぁ。湊も。俺に報告の連絡ないけど……。 何だよ、あいつ。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!