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──当然、想いを昇華出来ないまま過ごしていた。これから、幾度となく……こんな、日は来るだろう。
大友が直帰。るなちゃんが、帰り、続いて、結城の帰りを待っていた佳子ちゃんも結城とともに帰って行った。
つまり、二人になった。麗佳さんと。
「ねぇ、もう終わる? 」
麗佳さんが口を開いた。久しぶりに。仕事以外で。以前もこんな日があったな。あれは……クリスマスイヴか。そう、ぼんやりと思い出していた。この後、“デート”したんだっけ。
「いや、もうちょいかかる。気にせずに帰って」
「いえ、私も。……コーヒーいれようと思うのだけど……飲む? 」
「あー……お願いします」
二人きりのフロアにコーヒーの香りが流れる。
俺のデスクに丁寧にコーヒーを置いてくれる。
こんな、所作一つとっても、彼女はとても綺麗だ。
「順調? 」
「どれ……? 」
「清水部長」
回りくどく言っても通じないのはわかってる。……だけど……
「……もちろん……それ……」
聞いた癖に、聞きたくない。勝手だな。
「そっか、あの人は……そうだよな」
あの人と付き合って、問題などあるはずは……ない。
「来週行くでしょ? 宜しくね」
宜しく……か……。
「……はい」
それから、沈黙が続き。手に付かない仕事をしつつ、コーヒーを飲む。
「先月……」
「うん……」
「出来なかった話をしても、いい? 」
「うん……」
彼女が俺の分のカップも洗ってくれる。随分、早く飲んでしまった。洗い終わると、麗佳さんは結城の席に座った。俺も、彼女の方へ椅子ごと体を向けた。近い距離。彼女の清潔そうな香りが鼻に届く。
久しぶりにしっかりと目が合った。逸らすつもりはなかった。あの日の後悔のまま、聞かなければならない。俺は。これから、彼女話そうとすることを。
「私ね、吉良くんの事が好きなの」
「うん……」
「あの日に、そう言うつもりだった」
「うん……」
「……あの日に……聞いて……欲しかった」
「うん……。ごめん」
「いいの、言いたかっただけ。ごめんね、今更」
笑った。綺麗な……綺麗な……笑顔だ。見たかったはずなのに……
「じゃあ、お先に失礼するわね、お疲れ様」
「ああ、お疲れ様。……また……来週」
ドアが、ゆっくりと閉まるのを見ていた。……ただ。
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