第50話 side reika

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────週明け 結局、髪は切らなかったけれど、暖かくなってきた気温に合わせ、いつも下ろすだけの髪を、軽く巻き、緩くまとめた。少し、気分も変わる。いつもは髪があるその場所に、風が触れる。 出勤すると、まだ吉良くんだけだった。私に気づいた彼が少し気まずそうに挨拶をする。 「おはよ」 「おはよう、いい天気ね」 出来るだけ明るく、そう言った。 「えー、ああ。そうだね」 「あのね、吉良くん……もう一つ……聞いて欲しい話があるの」 「いいよ、もう。……知ってる」 彼は私を見ずにそう言った。やっぱり、あの事を知ってるのだと悟る。 「うん、でもね……聞いて欲しいの。ちゃんと、私の口から言いたい」 そこでようやく彼は私の方を見た。 「……分かった」 「少し、時間作って」 彼から目を逸らさずに、そう言った。 「最優先じゃなくてもいいから、必ず聞いて欲しい」 「わかった」 それから、一人二人と出勤してフロアが賑やかになった。そう、いつでもいい。聞いてもらえるなら。もう、逃げはしないから。 「……麗佳さん、その髪型、綺麗だね」 誰がいようと、彼は変わらず息をするように褒める。だけど、きっと本心で……もちろん下心もない。これが、自然な彼なのだろう。 「うん、ありがとう。ちょっと、首が寒いかな」 そう言って笑った。私服はなるべく、スカート。あれ以来そうしてる。自分の為に。 吉良くんと話す時には、湊ちゃんと選んだあのワンピースを着よう。そう思って業務に集中した。 昼から、清水部長のところへも行く。報告が、物凄く中途半端になるけれど ── 「で? 今日忙しいから、手短に聞くわ」 「思いは伝えました」 「で? 」 「……ごめんって……」 彼の顔がみるみる強ばる。 「それは……」 「あ、でも……私やっと皆や俊之さんのアドバイスの意味が分かって。その話をもう一度彼に……誤解、誤解ではないのだけど……」 「誤解だよ。麗佳。だ」 「でも……」 「時には、何もかも正直に言わない事の方が優しい時もある」 「でも……」 「総称して、誤解って言うんだよ」 「そう……なの……かしら」 「そうだ。俺の方が長生きしてるんだ、経験も豊富、間違いない。な? 」 「ええ」 「次! 次は頼みます」 「はい! 」 「……ところで……」 「はい? 」 「その髪型いいね、綺麗だ」 ……この人も……。 「ありがとうございます、清水部長。あなたも素敵です。今日も」 本当に、素敵な人。にっこり笑ってそう言った。 年度末の今月はどう転んでも忙しい。そのままバタバタと日にちが過ぎていった。
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