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第51話 side kira
『今度、取引先に来るとき教えて? ハンカチお返しします。ラストです』
湊から、そうメッセージが入った。ラスト。確かにそうだけど、引っかかる言い方するな、あいつ。もう、湊が泣くこともない。終わったんだ。というか、ハンカチくらい持っとけ。女子力の低いやつめ。
『来週の金曜行くー』
そう返信すると
『了解、その時に』
と、変な絵文字とともに返ってきた。湊どこ行くんだろうな。まぁ、どこ行っても大丈夫だろ。そのうち、いい男捕まえたって報告が来るといいな。
俺も、前を……。もう遮るものは無いんだ。梓と見た、あの桜の絵を取り外した額縁に、新たな絵を入れる。湊に見せたあの絵を、色付けた物だった。
……。
いや、これをここに飾るのは、もう前向きとは言えないな。今からまた、同じ年月引きずる気かよ。
壁にかけようとした手を止め、そのまま床に置いた。誰でもいいわけじゃない。誰でもいいわけじゃないんだ。
触りたい。自分の事さえ解決すれば、いつでも触れる。どこかでそんな風に思っていたのだろうか。
全ては一つに繋がっていた。23歳の過去から、ずっと……。麗佳さんの為で、彼女に触れたい。それだけが、長く留まった場所から俺を動かした。
その衝動が、梓を解放し、湊をも解放し、意味を成した。だけどその先にいるはずだった彼女は、もういない。
失恋だ。ただの。これも、きっと。それだけに過ぎないんだ。
俺が傷つけた彼女が、幸せならいい。あの綺麗な笑顔を向けるのが、俺じゃなくても、いいんだ。
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