第51話 side kira

1/5
前へ
/328ページ
次へ

第51話 side kira

『今度、取引先に来るとき教えて? ハンカチお返しします。ラストです』 湊から、そうメッセージが入った。ラスト。確かにそうだけど、引っかかる言い方するな、あいつ。もう、湊が泣くこともない。終わったんだ。というか、ハンカチくらい持っとけ。女子力の低いやつめ。 『来週の金曜行くー』 そう返信すると 『了解、その時に』 と、変な絵文字とともに返ってきた。湊どこ行くんだろうな。まぁ、どこ行っても大丈夫だろ。そのうち、いい男捕まえたって報告が来るといいな。 俺も、前を……。もう遮るものは無いんだ。梓と見た、あの桜の絵を取り外した額縁に、新たな絵を入れる。湊に見せたあの絵を、色付けた物だった。 ……。 いや、これをここに飾るのは、もう前向きとは言えないな。今からまた、同じ年月引きずる気かよ。 壁にかけようとした手を止め、そのまま床に置いた。誰でもいいわけじゃない。誰でもいいわけじゃないんだ。 触りたい。自分の事さえ解決すれば、いつでも触れる。どこかでそんな風に思っていたのだろうか。 全ては一つに繋がっていた。23歳の過去から、ずっと……。麗佳さんの為で、彼女に触れたい。それだけが、長く留まった場所から俺を動かした。 その衝動が、梓を解放し、湊をも解放し、意味を成した。だけどその先にいるはずだった彼女は、もういない。 失恋だ。ただの。これも、きっと。それだけに過ぎないんだ。 俺が傷つけた彼女が、幸せならいい。あの綺麗な笑顔を向けるのが、俺じゃなくても、いいんだ。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11006人が本棚に入れています
本棚に追加