第51話 side kira

2/5
前へ
/328ページ
次へ
────週明け。 オフィスに着いてそれなりの覚悟をする。当たり前だけど、同じ職場ということは毎日のように会う。 ほら、こんな風に二人になることだって珍しくないんだ……。 ドアが開くと空気が動くとともに、ふわっと香る彼女の香り。 「おはよ」 何とも言えない気持ちながら、挨拶をする。 「おはよう、いい天気ね」 俺の気持ちとは裏腹に、明るく笑ってそう言った。 ……気まずいのは、俺だけ、か。 「えー、ああ。そうだね」 少しの沈黙の後 「あのね、吉良くん……もう一つ……聞いて欲しい話があるの」 彼女が、そう言った。 「いいよ、もう。……知ってる」 彼女を見ずにそう言った。あの告白の後だ。……きっと、彼女は清水部長との事を言っておきたいのだろう。俺も担当している先の事だから。 「うん、でもね聞いて欲しいの。ちゃんと、私の口から言いたい」 彼女の方を見るといつもとは違う雰囲気。纏められた髪が、まるで別人のようだ。 「少し、時間作って」 俺の目をまっすぐ見て、そう言った。 「最優先じゃなくてもいいから、必ず聞いて欲しい」 「わかった」 最優先じゃなくても。あの、梓を優先した時の事を言っているのかそれとも……単に急がない報告だと言いたいのか。 それから、次々に皆が出勤してきてフロアが賑やかになった。 「……麗佳さん、その髪型……似合う。綺麗だね」 綺麗だった、やっぱり。今日、彼女は清水部長の所だ。 そんないつもと違う装いが、俺のものじゃなくても、俺の為じゃなくても……綺麗だった。 「うん、ありがとう。ちょっと、首が寒いかな」 そう言って綺麗な顔で笑った。こうやって、普通に話していたら、見られるその笑顔で、俺には十分だった。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11006人が本棚に入れています
本棚に追加