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────週明け。
オフィスに着いてそれなりの覚悟をする。当たり前だけど、同じ職場ということは毎日のように会う。
ほら、こんな風に二人になることだって珍しくないんだ……。
ドアが開くと空気が動くとともに、ふわっと香る彼女の香り。
「おはよ」
何とも言えない気持ちながら、挨拶をする。
「おはよう、いい天気ね」
俺の気持ちとは裏腹に、明るく笑ってそう言った。
……気まずいのは、俺だけ、か。
「えー、ああ。そうだね」
少しの沈黙の後
「あのね、吉良くん……もう一つ……聞いて欲しい話があるの」
彼女が、そう言った。
「いいよ、もう。……知ってる」
彼女を見ずにそう言った。あの告白の後だ。……きっと、彼女は清水部長との事を言っておきたいのだろう。俺も担当している先の事だから。
「うん、でもね聞いて欲しいの。ちゃんと、私の口から言いたい」
彼女の方を見るといつもとは違う雰囲気。纏められた髪が、まるで別人のようだ。
「少し、時間作って」
俺の目をまっすぐ見て、そう言った。
「最優先じゃなくてもいいから、必ず聞いて欲しい」
「わかった」
最優先じゃなくても。あの、梓を優先した時の事を言っているのかそれとも……単に急がない報告だと言いたいのか。
それから、次々に皆が出勤してきてフロアが賑やかになった。
「……麗佳さん、その髪型……似合う。綺麗だね」
綺麗だった、やっぱり。今日、彼女は清水部長の所だ。
そんないつもと違う装いが、俺のものじゃなくても、俺の為じゃなくても……綺麗だった。
「うん、ありがとう。ちょっと、首が寒いかな」
そう言って綺麗な顔で笑った。こうやって、普通に話していたら、見られるその笑顔で、俺には十分だった。
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