第51話 side kira

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──横の男は、ここ最近上機嫌だ。涼しい顔して上機嫌。 『お前とは付き合ってないって佳子ちゃん』 どうなったのか知らんが、出勤のエレベーターの中で二人して生欠伸。生々しい……。ま、良かったな。 相変わらず、ライバルは多いし、俺も佳子ちゃんにはやきもきするけど……俺の視線を感じたのか 「何だよ」 「いや、幸せそうで……」 羨ましい。その一言が言えなかった。 「飯、奢るのはまだなのか? 」 「あー……―奢って貰えそうに……ない」 そう言った俺に何かを察したのか 「お前は、格好つけだからな」 ボソッと言った。 「はい? 」 「恥くらい、晒してこい」 「お前は……? 」 俺がそう聞くと、結城は手を止めて……天井を見上げる。 「思い出すのも憚られるほどの……恥を晒してきた。ここまで来るのに」 「え……」 こいつが?何をしたんだ? 「絶対、言わない」 「何だ、それ」 「みっともないもんだ、本気って」 「……」 「お前が、そう言ったんだ」 「ああ、そうだったか」 「お陰で、今がある」 「……」 「本当に好きな女性を抱くってのは……いいもんだぞ」 ……生々しい……事を。あー、でも珍しいな。こいつが、こんなに喋るの。 「晒してから、駄目だったらお前だけに奢ってやる」 「……んー……そうだな」 確かに、格好いいとこ見せて貰ったもんな。あーでも、こいつも佳子ちゃんにはみっともないとこ見せたんだ。 ……何をしたんだろう。このAI()が。恥を晒して、今がある。か……。 そうか…… 「晒してみるかぁ」 そう言った俺に、ふっ。と微笑みまたカタカタとキーを叩く音だけがして、仕事に戻る。 俺に遠慮して佳子ちゃんを諦めようとした結城(こいつ)を馬鹿じゃないのかと思ったが、今ならわかる気がした。 そして、俺がそうされるのに苛立ちを覚えたように……彼も『何があったか 聞いて欲しいね』そう言ったあの人も、そうなのかもしれない。 ……触れたい。そう思う気持ちは今も……。いつか、彼女に触れた手を握りしめた。まるで、決心が逃げないように掴んだみたいに。強く。
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