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「うん、知ってる。今日は、清水部長には伝えてる。だから……」
「清水部長? え? 今日の仕事の話? 」
この、私を抱き締めるのと清水さんに何の関係が……。あ、誤解?その話かしら。
「……今日、約束してたんじゃないの? 彼と」
吉良くんが、目を細め、伺うように聞いた。
「今日? 今日はあなたでしょ? 清水部長の所は。行ったのでしょう? 」
「いや、行った……えっと……」
彼ははぁ~っと大きなため息をつくと、私の肩に頭を預けてきた。そして、そのまま動かなくなった。
「どうしたの? ねぇ? 」
彼の髪にそっと……撫でるように触れた。いつか、彼の家でもこうやって……
あの時は……確かこれくらいが限界で、今日みたいに、抱き締めるなんて……
え?
ちょっと待って!
「今……抱き締めた? わ、私のこと! 抱き締めた……わよね!? 」
「え、あー、うん。ごめん」
「ど、どういう事? 治ったの!? 」
「気づくの、遅」
そう言って、またゆっくりと抱き締められる。
「ずっと……こうしたかった」
彼は、嬉しさなのか、安心か……色々な感情がごちゃ混ぜになってるみたい。
ああ、でも……
「でも、ここは、外だし、会社の近くだわ。大人としてどうかと思うの。見られたら、どうするのよ」
「いいんじゃない? 美男美女だし」
彼はいつもの、自信たっぷりの笑顔で言った。
「もう! そういうところよ! 」
「麗佳だって……否定しないじゃん」
「私は! 私は……努力してるもの」
「じゃあ……見せてくれない? 」
「何を? 」
「その……努力の、賜物」
見せる?私の顔を伺うように見ると、言った。
「俺んち、麗佳んち、どっち? 」
「……えっと……私の家」
「了解。でも、その前に……」
そう言って彼は歩き始めた。私の手に触れる。
「これ、もう外れないんだ」
絡めた二人の手を持ち上げて、そう言った。何が何だかよくわからないけれど、繋いだ手が、恥ずかしくも嬉しくて……
私は彼が好きなのだなと、思った。それから、彼も私を好きなのだなと、思った。
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