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テーブルに向かい合って座ると
「今日は、さっさと食べて。酒もなし」
彼の左手と絡めていた、私の右手は離され、代わりにテーブルの下で、左手と左手を繋いだ。
たまたま通りかかったイタリアンの店。空席が見えるとすぐに入った。
「うーん……ペペロンチーノは臭いかしら」
そう言った私に彼が
「何でもいい。好きなの食べて」
「そうする。ガーリックたっぷりのやつ」
片手……食べにくい。
「それ、一口」
言われるがまま、フォークで一口大に巻いたパスタを彼の口に入れた。
……こ、これ……やってみたかった……
「はい、こっちも」
そう言われ、口を開ける。思った以上に恥ずかしい。いい年だったわ、私。対象年齢が、合わない。この、テーブルの下で繋いだ手も。
「これで、お互い様。さ、いこっか」
ああ、ガーリックか。なるほど、その手があったわね。
それからまた、右手を左手に変えて歩いた。途中、何度か顔を見られ、その度に彼が微笑む。ただ、微笑む度に立ち止まる。そんな彼に心臓が……飛び出るかと……
電車でも繋いだままの手に物凄く恥ずかしい。立ち上がった彼に続いて下車する。
……あれ……ここ。
「私の家じゃないの? 」
「あー、ちょっと取りに行きたいもんあるから。いい? 」
「ええ」
彼の家に着くと、玄関でしばらく待った。
「スーツ、着替えていい? 」
「ええ、どうぞ」
「入って、ソファーにでも座ってて」
そう言われるままに、おじゃまして腰かける。懐かしい。また入れる日が来るなんて。
ふと、目を落とした先に、絵?前は壁に飾ってあって、その絵は見覚えのある……景色だった。
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