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「お待たせ」
そう言って、より軽薄そうな、それでいて素敵な姿で出てきた彼に、いちいち心臓が反応する。私服姿は、特別感が凄い。
「ねぇ、これって……あなたが? 」
その絵を指して尋ねた。
「あー、うん」
バッグからスマホを取り出すと、画像を開いた。思い違いでなければ、いつか二人で見たあの景色。この、絵と同じ。
それに気づいた彼が、顔を寄せる。その距離に認識する。もう大丈夫なのだと。
「あー……なかなか近いな。やっぱ街並みは適当なのがわかるなぁ」
「なぜ……」
「……特別な、景色だったから」
「それって」
「うん」
彼が、手を伸ばしスケッチブックを取ると
私に渡す。見せて貰ってと、湊ちゃんが言っていた。
そこには……私。笑った顔。愛想なしの私なんて、滅多に笑わないのに。
「私……」
「うん」
「私、こんなに……」
「もっと綺麗よって? 」
「もう! 」
彼に抗議の為に少し顔を後ろに向けようとした。
一瞬。一瞬の出来事だった。彼のからかう言葉に、絵の方が素敵だと……言おうと……
目の前に、彼の顔。少しの風が届く。
唇に柔らかい感触。驚いて、目を閉じる事も出来なかった。
「行こう、麗佳んち。まだ、話出来てない」
「あの……先に話……じゃないのかしら」
「あー、そんな意見もあるかもしれんね」
「あなたって……」
「したかったんだもん」
……だもん。って……
再び繋がれた手は、絶対私の方が熱いはず。この人は本当に……触れない。から、触れるようになると、こうなのかしら。緩んだ顔で、そう思った。
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