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私の家に入ると
「えっと……で? なんだっけ、話」
軽い。とことん軽い口調で彼がそう言った。
「あの、金曜日の話を……」
「あー、それ。もういいや」
「はい? 」
「知ってる。上で、言います」
「何? 」
「好きです」
「軽いー」
「軽くない。相当、悩んだ。それに……麗佳が好きだって気持ちが……治してくれた」
そう言って、繋いだ手を少し持ち上げた。
「好きだって、言ってくれて嬉しかった」
「ごめん。って言ったじゃない、あなた。振ったわよね? 」
「へ? いや……それは……そっちへ行かせちゃっての……ごめん。だ」
そっち?ああ、俊之さんの方へ?知ってたってこと?
「いいんだ。過去は。だろ? 」
「そうね……今は……」
と、なると……話すことが無くなる。
「コーヒーでもいれましょうか? 」
私の問いに答える事なく近い距離で目が合う。とても、近い距離で。より一層近づく。今度は、唇が触れる前に目を閉じる事が出来た。
あ、待って……そうだ。いつか、宮司さんに言われた言葉を思い出した。
「ま、待って! 」
「何?」
不機嫌に眉を寄せた彼に言った。ビニール袋を取り出し、ダストボックスに重ねた。
「えっと、トイレあっち! お風呂と洗面所はそっち! それで、これ! 」
彼にそのダストボックスを渡した。
「大丈夫、吐いても。ね? 」
そう言うと、驚いていた彼が笑いだした。
そして、また……唇を重ねる。今度は、深く……深く……。
ようやく唇を離すと
「大丈夫。もう、どこでも触れる。だから……」
そう言ってキスを深めながらも器用にボタンを外していく。どちらも、おざなりにならないその様子に、思わず
「凄いわね」
と、言ってしまう。
「何、やってみたいの? 」
「ええ、ちょっと」
また笑う彼に、こちらから唇を合わせ、彼の服を……
「口、止まってる」
本当だ。難しい。
「今度は、手」
「難しいわね……慣れすぎじゃない? 」
そう言うと、今度は、彼が固まった。
「ほらぁ、微妙な空気になっただろ。慣れてるわけないだろ、何年ブランクがあると思って……」
そこまで言うと彼は髪を自分の髪をバサバサと乱した。
「あー! もう! 」
そう言って、そっぽを向いた。まずかったかしら……
「せいぜい3年程でしょう? 私なんて……5年以上……」
「え? 」
「ええ、ブランク。正式な日数出しましょうか? 」
彼が再び固まる。
「いや……いいです」
それから、大きな大きなため息をついて、倒れ込むように、私に身を預けた。
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