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ようやくと言っていいほど遠く感じた彼女の家に入ると、話だったな、話。
「……あの、金曜日の話を……」
清水部長とホテルから……出てきたやつか。もう、どうでもいい。
「知ってる。上で、言います」
いいんだ。もう。そんな事より、誰かと関係があったことより、触ったらダメになる方がキツイ。
未だに繋いだままの手を持ち上げた。
「好きだって、言ってくれて……嬉しかった」
「ごめん。って言ったじゃない、あなた。振ったわよね? 」
振った?いや、彼氏出来た人にはそれは、OK出来ないだろ。
「いいんだ。過去は。だろ? 」
「そうね……今は……」
今が、大事なんだ。何より。彼女もそう言った。なら、話は終わりだ。
「コーヒーでもいれましょうか? 」
そんな時間も惜しい。近づく俺に合わせ、綺麗な瞳が閉じられ、長い睫毛が繊細に列を……
「ま、待って! 」
何だよ。彼女は立ち上がり、近くのダストボックスにビニール袋を二重に被せた。
何だ?
「えっと、トイレあっち! お風呂と洗面所はそっち! それで、これ!」
そう言って、ダストボックスを抱かされる。いや、邪魔ですけど。すごく。そっと、横に避けた。
「大丈夫、吐いても。ね? 」
へ?ああ!いや、もう触ってるし、チューもしたし。今かよ!!
おもしれ。彼女の頭を抱えるように、キスをする。全部。口ん中、全部奪うように。
「大丈夫。もう、どこでも触れる。だから……」
早く、触らせて。逸る気持ちを抑え、キスはしながら。片手も繋いだまま服を……
「凄いわね」キスの合間に彼女がそう言う。
……。何となく、悟る。
「何、やってみたいの? 」
「ええ、ちょっと」
ふっ、まあいいか。ちょっと、俺も落ち着かないと。それに、脱がされるのも……いいね。
「口、止まってる」
なのに、全然進まない。
「今度は、手」
挙げ句、『慣れすぎじゃない』と。
……あー……もう。
「ほらぁ、微妙な空気になっただろ。慣れてるわけないだろ、何年ブランクがあると思って……」
……あ……そうか。思い出したくない事を思い出した。清水部長の……次か。
髪を自分の髪をかきむしった。忘れろ、忘れろ!
「あー! もう! 」
他の事考えようと、彼女から目を逸らした。
「せいぜい3年程でしょう? 私なんて……5年以上……」
「え? 」
「ええ、ブランク。正式な日数出しましょうか?」
あの日、して……ないのか?ホテルまで行っといて?
「いや……いいです」
ダメだ。もう。彼女の上に倒れこんだ。
「どうしたの? 」
「いや……ちょっと……あー、俺……何か今、恥ずかしい」
だから、清水部長は俺に『聞け』って……言ったんだ。わかって……わかって手出さなかったんだ。あそこまで行って。
あの人……。うわぁ。めちゃめちゃ恥ずかしい。壁ドンしちゃったよ。顔、見れねぇじゃん。もう。俺が恥じてる間にも、麗佳はぶつぶつ言ってる。何だよもう。
「セカンドヴァージン。そうそう。でも……私の場合は……何人かしら。えっと……英語でカウント……」
数?え?数言おうとしてる?経験人数?
「うわぁ! 言うな、言うな。もういい」
突っ伏してたけど、慌てて起き上がった。
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