第54話 side reika

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「ねぇ、私以外に抱きつかないでね」 念のため言った。 「つまり、ハグも」 彼は、ぱちくりと音がしそうな瞬きを一回すると 「……しません」 「たぶんね、体質が治ったとあれば、近いのよ。距離感が……吉良くん」 「あー、うん。たぶん、そうだわ」 「私、結城くんの気持ちがわかる」 そう言うと、なぜか吹き出した。 「気をつけます。麗佳さんは? 」 「私? 愛想ないからなー。気をつけてるのだけれど」 「名刺、貰ったりしてんの? 」 「え、ああ。……あ! 」 「何だよ」 彼の腕をすり抜けて、バッグから名刺入れを取り出した。この……名刺、そうだ。 「あの……これ」 「誰から貰った……」 「中条麗佳と申します。末永く、宜しくお願い致します」 「え……何? 」 吉良くんは、一礼して名刺を受けとると、裏を見た。そして、少し眉を寄せた。 「どういう事? 」 「今年は、頑張ろうと思って。素敵な人がいたら、すぐ渡せるように、準備してたの。渾身の、一枚」 「……昭和かよ」 「だから、昭和くらいの人が丁度いいかなって」 「頂戴致します」 そう言って、その名刺を受けとるとテーブルに置いた。 「ごめん」 なぜか、謝る彼に、首を傾げた。 「大事にする。その分」 そう言って、定番になりつつある、手を繋いぎ、唇が触れあうのを待った。 「いいのよ、今年は頑張るって決めてたし。それこそ、ハンターのように」 「なんだ、それ」 「時には雌ヒョウのように」 「……麗佳、ハンターと雌ヒョウは相反する感じだけど? 」 「本当だ、狩る方と、狩られる方」 彼はそのままずっと肩を揺らしていた。その振動が心地よく、繋いだ手から伝わった。 渾身の一枚渡せて、良かった。まだ、揺れてる彼に、私も微笑んだ。彼は笑いの沸点が、すごく低い。
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