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「ねぇ、私以外に抱きつかないでね」
念のため言った。
「つまり、ハグも」
彼は、ぱちくりと音がしそうな瞬きを一回すると
「……しません」
「たぶんね、体質が治ったとあれば、近いのよ。距離感が……吉良くん」
「あー、うん。たぶん、そうだわ」
「私、結城くんの気持ちがわかる」
そう言うと、なぜか吹き出した。
「気をつけます。麗佳さんは? 」
「私? 愛想ないからなー。気をつけてるのだけれど」
「名刺、貰ったりしてんの? 」
「え、ああ。……あ! 」
「何だよ」
彼の腕をすり抜けて、バッグから名刺入れを取り出した。この……名刺、そうだ。
「あの……これ」
「誰から貰った……」
「中条麗佳と申します。末永く、宜しくお願い致します」
「え……何? 」
吉良くんは、一礼して名刺を受けとると、裏を見た。そして、少し眉を寄せた。
「どういう事? 」
「今年は、頑張ろうと思って。素敵な人がいたら、すぐ渡せるように、準備してたの。渾身の、一枚」
「……昭和かよ」
「だから、昭和くらいの人が丁度いいかなって」
「頂戴致します」
そう言って、その名刺を受けとるとテーブルに置いた。
「ごめん」
なぜか、謝る彼に、首を傾げた。
「大事にする。その分」
そう言って、定番になりつつある、手を繋いぎ、唇が触れあうのを待った。
「いいのよ、今年は頑張るって決めてたし。それこそ、ハンターのように」
「なんだ、それ」
「時には雌ヒョウのように」
「……麗佳、ハンターと雌ヒョウは相反する感じだけど? 」
「本当だ、狩る方と、狩られる方」
彼はそのままずっと肩を揺らしていた。その振動が心地よく、繋いだ手から伝わった。
渾身の一枚渡せて、良かった。まだ、揺れてる彼に、私も微笑んだ。彼は笑いの沸点が、すごく低い。
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