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第55話 side kira
ふわっとした香りに、ふわっとした感触。……柔らかい。何だろ。
「……ん……」
薄目を開けて見ると、目の前に綺麗な……あ、麗佳だ。ん……そうか。
「おはよう、お寝坊さん」
そう言って、おでこにキスされる。お寝坊さん……なんだそれ、いいな。
ベッドに腰掛けたまま、ボーッとした脳ミソを起こした。じわじわと、事実の認識。ああ、そうか。
「朝食、できてるけど? 」
時計を見ると11時近かった。
「……食べる」
そう言って立ち上がると、歯ブラシを渡され洗面所へ。
「顔洗って。ね? 」
あー、あの人なんで朝からあんな元気なんだ。気だるいわ。体力ねぇな。運動でもするかなあ。歯磨きを終えると、タオル、どこだ?
「麗佳、タオル~」
「ああ、はい」
洗面所へ入るとタオルを手渡してくれる。二本並んだ歯ブラシ。ずっと少し微笑んだままの彼女に状況を再認識する。
……うーん……いいな。
──テーブルにつくと、食事が用意してあった。ご飯、味噌汁、小鉢数品。初物だろう筍の煮物には、山椒の葉が飾られている。こういう、旬のものとか、山椒が乗ってるとか、ちょっとしたことだけど、丁寧に育てられてきたんだろうなと思う。
「頂きます」
「……どうぞ」
そっと、俺の方を見る彼女と目が合った。
「いい朝だね」
そう言って笑った俺に、彼女は赤く染まる。えー……ああ。翌朝ってやつだもんな。
……上品な味付け。朝から味噌汁。長生き出来そうだな。結婚して下さい。いや、ほんと。
食事が終わると、彼女が片付けているのを、真後ろで見た。エプロンいいねぇ。外したくなる。
麗佳の動かす肘が当たって、多分俺は邪魔だ。彼女が手を拭くのを待って手を繋ぎ、抱き合い、キスをする。体質が治ったことより彼女がここに、俺の腕にいることが嬉しかった。少し離れると、また触りたくなる。ずっと手を繋いで過ごした。
「今日は、どうする? 」
なんて、当たり前に一緒に過ごす。……ああ、いいな。
彼女も微笑んで、頷いた。普段はクールな彼女が、柔らかい雰囲気でいることに、同じ気持ちでいてくれるのだと、わかる。
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