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ここから、彼女のやりたいシリーズに付き合えるのは、きっと、俺だけ。わくわくした顔の彼女に、一つ一つ。対象年齢が合わなくても構わない。
「オフィスラブも……やってみたいのに入ってた? 」
……微妙な顔。彼女は、それは経験があったらしい。そうか、彼女が他の階にいるのも知らなかった。うちの会社に声をかけられて入ったことも知らなかった。
あー、絶対、見た目だな。声掛けたの社長だろ。
「ごめんなさい。気にした? 」
「いーえ、そんな小さな男では……ありません」
いいんだ、別に。
「大事なのは、今。ですからね」
過去も、むしろ過去があって、今がある。繋がってる。過去も彼女を構成する一部なんだ。
……でも、……まあ……
ちぇっ。
近くにある彼女の顔を引き寄せてキスした。常に俺が最新であるように。ちっちゃ、俺。
──
「名刺、貰ったりしてんの? 」
ふと、気になって聞いたことに、彼女が何かを思い出したかのように反応した。俺の腕から離れ、バッグから名刺入れを取り出した。
名刺を見てる。何だよ。また、貰ったのかよ。
「あの……これ」
「誰から貰った……」
「中条麗佳と申します。末永く、宜しくお願い致します」
「え……何? 」
丁寧な所作に、俺も一礼して名刺を受けとると裏を見た。麗佳さんの?番号。プライベートだよな?
「どういう事? 」
「今年は、頑張ろうと思って……素敵な人がいたら、すぐ渡せるように、準備してたの。渾身の、一枚」
「……昭和かよ」
「だから、昭和くらいの人が丁度いいかなって」
「頂戴致します」
そう言って、その名刺をテーブルに置いた。そうか、麗佳さんより少し年上ってことか。ちょうどいいくらいの歳……ね。だけど、彼女がこれを渡すつもりだったというのなら、俺でも清水部長でもなく他の誰かだ。
「ごめん」
きっと、随分悩ませた。それで、出した結論が、これなんだ。清水部長にいこうとしないのが彼女の、この名刺が、気持ちを物語っていた。
「大事にする。その分」
手を繋ぎ目を閉じる彼女に、優しくキスをする。大事にする。絶対。
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