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「例えば、私が他の人にネクタイ結んでたら? 」
「……」
「じゃれあって、その手が触れあってたら?
」
「……」
「気にしないのでしょうね、あなたは」
そう言って彼女は笑った。何とも思ってないから、そうしたわけで、それに向こうも。身内みたいで……。ああ、でも言われて初めて気づく。
「さて、続き……するの? 」
「……しない」
何となく、麗佳の方を見れなかった。
「いいのよ、それがあなたなんでしょ。だから、私が歩み寄ることにします」
歩み寄る?自分もそうするって事……か?未だに目を合わせられない俺に、優しいキスをくれた。
と思ったら、急に胸を押され、ベッドの端で頭を打った。ゴンと鈍い音が響いた。
「いって」
「私は、もっと痛かったけど? 」
俺を押さえ込むように見下ろす彼女の、艶やかで長い髪が俺に触れる。パラパラと彼女の肩から落ちては、俺に降ってくる。
「過去を精算して、何一つやましい気持ちがない状態で、向き合いたかったんだ。それが、終わったら……ようやくスッキリしたら、麗佳は清水部長の所で。間違いなく彼なら幸せにしてくれる。それに……麗佳の気持ちもすぐに、彼に向くだろうと思った。今更、俺が横入りするのも……余計な事をして二人を拗らせたく、なかったんだ」
過去を優先した。
「ええ、あなたの気持ちも分かるわ」
「でも、それが結局……一番拗らせた。自分で言うのもなんだけど、今まで苦労したことなかったんだよね。何もかも」
「器用だものね。スマートだわ、とても」
「優先したんだ、プライドを。しょーもない、プライドを。二人が幸せならいいって、本当は……ただ逃げてただけだ。向き合う事に」
体勢を返すと、今度は彼女を見下ろした。
「触れたいと、俺が触れたいと思うのは、麗佳だけだ」
「ええ、知ってるわ」
「好きだ」
「うん」
「……言って」
「……好き。私も」
「治してくれて、ありがとう。俺を」
「……触って。好きな、だけ」
彼女の髪を梳いて、顔にかかっているのを避ける。……キスがしやすいように。
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