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第56話 side reika
彼の少し厚手のシャツを着せられながら、気づいたのだけれど、昨日突然呼び捨てにされて、抱きしめられて、色々されて、色々して、今に至るんだけれど……。そして、当然幸せなのだけれど
考え込む私の顔を彼が不思議そうに見る。私の手を繋ぎ、一緒にベッドに腰かけた。
なぜ、私はなかなか恋人が出来なかったのだろう。それを聞いても教えてはくれなかった。吉良くんはニッと笑って
「おいで」
そう言った。おいでって、もう隣にいるのだけれど。
「俺にとっては、長所だよ」
長所?こんなに長く彼氏ができなかった原因が?
「出来たんだから、いいだろ? 彼氏」
「じゃあ、もし別れたら、教えてくれる?
」
まぁ、つまり、もう知ることはないのだけれど。彼にとっては長所ならば、それでいいのだろうか。
吉良くんは、軽薄だとはとても言えないほど、やさしく……触れる。触れられる喜びを何より知っている人だから。手で、唇で、全身で、伝えてくれる。私を、好きだと。
目が合うと嬉しそうに嬉しそうに、キスをする。吉良くんがあの日、私に『ごめん』
そう言ったのは……きっと、私と俊之さんの事を思ってのこと。
俊之さんは、吉良くんに取っても大切な人なのだろう。そして、私の事も、大切に想ってくれていたのだろう。
まぁ、それでも譲らないで欲しかったけどね。着せたシャツは再び取り払おうとする。もう、こんな感じだ。
「触れたいと、俺が触れたいと思うのは、麗佳だけだ」
「ええ、知ってるわ」
「好きだ」
「うん」
「……言って」
「……好き。私も」
「治してくれて、ありがとう。俺を」
「……触って。好きな、だけ」
私の髪を優しく梳いて、顔にかかっているのを避ける。唇から伝わるのは、熱だけではない。吐息からも。
私より少し体温の高い彼と触れあう部分全てが……溶けていくよう。
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