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広いショッピングモールで、館内マップを見る。あった、あった、食器屋さん。
「ねぇ、好きなの選んで」
私がそう言うと、彼は微妙な顔。
「ペアは嫌だって言うから。わ、これ綺麗」
「ペアで、お願いします」
……微妙な顔したのに、ペアでいいのね。お揃いの食器。夫婦茶碗。……結婚するみたいじゃない。
さすがにそれは浮かれすぎね。戒める為に、マグカップを持ち上げた。
あら、これ、底に鼻が描いてある。あ、飲むとブタさんの鼻になれるのね。お互い買うと吹き出しちゃうわね。
相変わらず、吉良くんは微妙な顔。いらないのかしら。こうやって、二人で使うものを一緒に選ぶのも夢だったのだけれど。
「新婚さんみたいだな」
いたずらっぽく笑う彼の笑顔に冗談だろうのに、思わず俯いてしまった。たぶん、顔も赤い。
「……えーっと、俺も買おうかな、ペア。ほら」
そう言って、吉良くんがブタ鼻になった。
「ちょっと、もう! 」
意外に違和感ない。彼のブタ鼻はとても可愛い。楽しい。いつか、そんなに日がきてもいいなぁと思った。買った食器たちを、一旦彼が車へ運んでくれる。
それにしても、彼は本当に目立つ。彼といると凄く見られる。あれだけ格好いいのだもの。仕方がない。ちょっと何かを落とした人とか、困っている人とか、笑顔で助けちゃう。素敵な人。まぁ、それが、ナンパに見えなくも……ないのだけれど。
荷物を置きに行ってる彼を待つ間、ベンチに座って行き交う人を見ていた。
戻って来る途中の彼が、女性二人と話しているのが見えた。彼はにっこり笑っているものの、少し距離を取り私の方へと戻って来た。
少し、顔色が悪い。頬、首筋に彼の髪が触れる。私の肩に、頭を預けるようにすると、小さなため息をついた。
「ちょっと休憩」
「うん」
彼の肩に腕をまわし、背中を撫でた。
「大変だ」
「うん」
「もう、麗佳しか触れない」
そう言って顔を上げると、チュッとキスをして、また肩へと戻った。
彼を肩に伸せたままキョロキョロまわりを見回した。そんな私に、彼はいたずらっぽい笑顔を向けた。
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